没 薬  ミルラ MYRRH  聖書ヶ所引用: 新共同訳                 
「頬は香り草の花床、かぐわしく茂っている。唇はゆりの花、ミルラのしずくを滴らせる」  雅歌5:13
「家に入ってみると、幼子は母マリアと共におられた。彼らはひれ伏して幼子を拝み宝の箱を開けて、黄金、乳香、没薬を贈り物として献げた」   マタイ2:11 
「没薬を混ぜたぶどう酒を飲ませようとしたが、イエスはお受けにならなかった」 マルコ15:23 

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没薬はヘブライ語のモール (モツヤクジュ) ロート (ムラサキゴジアオイ) 欽定訳における訳語である。              ロー創世記37:25、43:11の2ヶ所に登場するが、欽定訳は誤って没薬と訳している。 
【モール この語は、出エジプト記30:20では聖別の油として、エステル記2:12では婦人の香油に使う成分として、詩編45:8[9]や箴言7:17、雅歌の数か所では香料として、それぞれ登場する(新共同訳ではミルラ)。
ギリシャ語ではスミュルナ(新共同訳では没薬)が、占星術の学者たちが幼児イエスに献上した贈物の一つとしてマタイ2:11に登場する。 ギリシャ語のスミュルナは、十字架の上のイエスに飲ませようとして拒まれた[没薬を混ぜた酒]オイーノス・エスミュリスメノスとして、マルコ15:23に登場する。没薬は埋葬の際にも香料として使われる(ヨハネ19:39)。ヘブライ語のモールという物質の性質をめぐっては、さまざまな論争が行われてきた。モツヤクジュ(没薬樹)は、光沢のある三葉を備えた不規則に棘の生えた低木で、材と樹皮に強い香りを持つ。樹皮から滲みだした樹脂は初めのうち油状であるが、空気に触れると固まってくる。「樹皮から滴下するミュルラ」がヘブライ語聖書のいうモールと同一のようだ。 没薬の産地についても議論が繰り返されてきた。原産はアフリカ東北、南アラビアで薫香料、医薬品として用いられ、エジプトには紀元前1700年頃にはすでに輸入されていたようである。
【ロート】 ロートはムラサキゴジアオイ(紫午時葵)の枝から滲み出る芳香性樹脂だと一般に考えられている。ロートが没薬でないことは明らかである。ゴジアオイ属はパレスチナに自生するハンニチバナ科に属する。正午に葵に似た花を公開するので午時葵(属)、夕方にはしぼんでしまうのでハンニチバナという呼称が科名になっている。 平地、山の斜面、砂地、岩場などどこにでも生育し、白~ピンク~深紅色の野バラに似た花をつける。草丈は30~80センチ、葉の多い枝を広げ、2~5センチの葉をつける。昔は羊飼いが動物の毛についた樹脂を櫛ですいて集めた。

ゆ り LILY 
「わたしはシャロンのばら、野のゆり。おとめたちの中にいるわたしの恋人は茨の中に咲きいでたゆりの花。」
雅歌2:1.2 (新共同訳)   「わたしはシャロンのばら、谷のゆりです。おとめたちのうちにわが愛する者のあるのは、いばらの中にゆりの花があるようだ。」 (口語訳) 

「ゆり」はヘブライ語の訳し方によって諸説があり、「ゆり」であっても種を同定することは難しいようです。「シャロン」はカルメル山とヨッパの間にある野。春になると、たくさんの花が一度にパッと咲きだす。元来シャロンの原語は普通名詞の「野」だから、この訳語をとるものも少なくない。 「ばら」は実は水仙らしい。パレスチナに原生し、土民の愛する花。「谷のゆり」グラジオラスか。ただし、他に蓮、アネモネ、サフラン、などの説もある(口語訳旧約聖書略解)。 「ゆり」と訳されている旧約聖書のいうヘブライ語の「シューシャーン」や「ショーシャンナー」と新約聖書の山上の説教の中に登場するギリシャ語の「クリノン」が同一だとすることは問題なさそうだ。ヘブライ語の「ショーシャンナー」が「ゆり」を表していることは間違いないが、どの種であるのかは明らかでない。「シューシャーン」という語は赤色ないしは紫色ゆりの「クリノン」と白色ゆりの「レイリオン」との2種類にあてはまることになるため、このヘブライ語に基づいてゆりの種を同定することはできない。いずれにしろそれらの名詞が表す「ゆり」はゲネセル湖(ガリラヤ湖の旧称)畔に自生し、人眼を引くような種であったに違いない(マタイ6:28、ルカ12:27)。鮮やかな色のゆりの花はマタイ6:28に描かれているようにソロモン王の豪華な衣装にたとえられている。 「野の花がどのように育つのか、注意して見なさい。働きもせず、紡ぎもしない。しかし、言っておく。栄華を極めたソロモンでさえ、この花の一つほどにも着飾ってはいなかった。」 マタイ6:28,29 雅歌5:13によると、問題の花は緋色ないしは桃紫色であったことが推測できる。 「頬は香り草の花床、かぐわしく茂っている。唇はゆりの花、ミルラのしずくを滴らせる」 雅歌5:13  このような特徴の全てに合致するのはレヴァント地方に豊かに自生し、英名(緋色マルタゴン Scalet Martagon)で知られる「カルケドンリリーL.Chalcedonicum」のほかには考えられない(聖書植物大辞典)。 「白ゆり」がキリスト教と深い関係をもつには、ヨーロッパ中世の画家によるところが極めて大きい。 聖母マリアが描かれているところにはほとんど背景か、あるいは手に白ゆり、つまり「マドンナ・りりー(聖母のユリ)」を持たせられている。白ゆりのもつ純潔、清楚な感じがマリアの純潔、無垢と重なったものと考えてよい(聖書の植物物語)。 
聖書のみ言を読み、聴き、理解を深めるには、み言の背景となる旧約・新約時代の情景、動植物、食べ物は現代のものと違ったり、変化したりしているかも知れません。それらを確かめながら聖書のみ言を読み、聴き、想像するのもよいことだと思います
 参考図書
・聖書 (口語訳)日本聖書協会 (新共同訳)日本聖書協会 ・旧約聖書略解 (口語訳) 日本基督教団出版局1974年8月 26版 ・聖書植物大辞典 ウイリアム・スミス編纂 藤本時男編訳 図書刊行会2006年9月 ・聖書の植物物語 中島路可著 ミルトス 2000年4月 ・聖書の植物 H&Aモルデンケ著 奥本裕昭編訳 八坂書房 1995年11月 ・神の植物・神の動物 J.Kユイスマンス[大伽藍] 野村喜和夫訳 八坂書房 2003年2月 ...

聖書の花Ⅱ....神の庭....やなぎ....             2012年2月17日 解説・写真撮影 山本光男